伝説の帝王、最後の日本公演―ファルフ・ルジマトフという時代を見届ける!洗練された身体表現と独特の色気。強烈な魅力で黄金期を築き上げたカリスマ的バレエダンサーが、いま日本で刻む“芸術の最終章”

世界最高峰のダンサーとして記憶に残る鮮烈な足跡を残し、観客を熱狂させ続けた“帝王”ファルフ・ルジマトフが、最後の日本公演を行います。ルジマトフは日本初演となる2つの作品を披露。また、ルジマトフと数多く共演してきたイリーナ・ペレン、彼の芸術監督時代に活躍の幅を広げたアンジェリーナ・ヴォロンツォーワが出演。ルジマトフの息子ダレル・ルジマトフも初来日します。マリインスキー、ボリショイの各劇場から次世代を担うダンサーも出演予定。ルジマトフが踊ってきた数々の代表作を中心に紡ぐ特別なプログラムを披露します。
バレエダンサーとしてひとつの時代を築き上げたルジマトフによる、心に刻まれる最後の舞台!公演に寄せて、舞踊評論家の村山久美子さんに、ルジマトフの魅力その真髄について寄稿していただきました。

ファルフ・ルジマトフ「バヤデルカ」

観客を熱狂させた、神秘的エキゾティシズムとストイックな美
妥協なく芸術を極める孤高のダンサー、ルジマトフ

 ファルフ・ルジマトフは、世界最高峰のバレエ団の一つ、サンクト・ペテルブルグのマリインスキー・バレエのトップダンサーとして長年世界を魅了し続け、フリーになった現在も崇拝され続けている。
 長い歴史と伝統をもつマリインスキー・バレエは、これまで、世界バレエ史の輝かしい一頁を飾るような名舞踊手を数多く輩出してきたが、なかでも男性では、伝説的天才舞踊手ワツラフ・ニジンスキーとルドルフ・ヌレエフ、そして、現代のカリスマ的舞踊手ファルフ・ルジマトフが一際輝いている。

 彼らの共通点は、まず第一に、“踊りの色気”である。彼らは、超がつくほど高い技術を我物にしていたが、それ以上に、その踊りには、観客の心が強く吸い寄せられてしまう何か独特の色気がある。高い技術をもち端正に踊るダンサーは世界に数多いが、踊りに独特の色気を感じさせるダンサーは、極めて稀であり、それこそが、他の追随を許さない、孤高のダンサーと呼ばれるようになる所以である。

「シェヘラザード」

 ルジマトフを最初に見たのは、彼が初来日した1986年のマリインスキー・バレエ(現在名)の日本公演だった。バレエ団が、特異的な魅力を放つ気鋭のダンサーとして世界に売り出そうとしていたときで、古典作品ではなく、ジョージアの詩人ショタ・ルスタヴェリの叙事詩をもとにしたバレエ『虎の皮を着た勇士(原作名は『豹皮の騎士』)』の主役を踊った。
 スラブ系ではなく、ウズベキスタン出身のエキゾティックな風貌と、高いレベルで習得したクラシック舞踊が生み出す洗練された身体表現が、当時の首席バレエマスター、ヴィノグラードフを触発し、この作品の上演構想が出来上がったのにちがいない。

 このバレエの神秘的なエキゾティシズムと、アジア的な神秘性とロシアで高度に発達した西洋のバレエの洗練のブレンドは、その後もルジマトフの魅力の核となり続けてきた。

 その最たるものが、観客にルジマトフ以上のものはないとまで思わせた『海賊』のパ・ド・ドゥである。海のようなブルーのハーレムパンツだけの衣裳で現れる彼の細身の上半身の筋肉のストイックな美しさ(彼はこの美しさを62歳の現在も保ち続けている!)。そして無色透明の本質をもつクラシック舞踊のピュアな美しさを、敢えて微妙に崩したポーズ、背中の反り、頭の傾きや陶酔の表情の“色気”。ルジマトフが来日するたびに、日本の観客は、彼の『海賊』を待っていた。カリスマ的ダンサーとして、観客の熱狂に包まれたのである。

「海賊」

 ルジマトフはその長い舞台人生のなかで、たえず自分の美点を最も発揮できる作品を追究し続けてきた。何でも踊ってみたがるダンサーがいる一方で、妥協なく自分の最高の舞台を創る彼の姿勢こそが、本当の芸術家のものであると私は思う。

 彼が自分のために選んできたのは、ニジンスキーが踊ったエキゾティックな『シェヘラザード』の金の奴隷、黒髪をオールバックにし、憂愁を帯びたダンディさを見せたニコライ・タグノフ振付のタンゴ『エル・チョクロ』、自由を求め新たな世界に飛び立とうともがく孤独な男を描いた、ボリス・エイフマン振付『アルビノーニのアダージョ』、シェイクスピアの『オテロ』を原作としたホセ・リモン振付『ムーア人のパヴァーヌ』。そして、近年では、日本舞踊の名舞踊手であり振付家の藤間蘭黄の作品『信長』での信長等々。

 いずれも、外に発散する西洋の表現とは異なる、内省的な踊りを必要とするルジマトフにぴったりの作品で、観客に最大の満足感を与え続けてきたのである。
 いつまでもその舞台を見続けていたいと思わせる、稀有の強烈な魅力をもつダンサーである。

村山久美子
(舞踊評論家/ロシア舞台芸術研究)


<公演情報>

「ルジマトフ JAPAN FINAL」

レジェンド、ファルフ・ルジマトフの日本引退公演にふさわしい、彼のミューズたち、そして彼のレガシーを受け継ぐ次世代のダンサーたちが一堂に会します。長年にわたり第一線で活躍し、数々の名演を世に刻んできたルジマトフ。その歩みを象徴する代表作の数々を中心に、本公演ならではの特別なプログラムをお届けします。ここでしか観ることのできない共演や再演にも、ぜひご期待ください。

6月13日(土)15:00開演 梅田芸術劇場 メインホール <Aプログラム>
6月16日(火)14:00開演 新宿文化センター 大ホール <Aプログラム>
6月17日(水)14:30開演 新宿文化センター 大ホール <Bプログラム>
6月17日(水)18:30開演 新宿文化センター 大ホール <Bプログラム>

<出演予定>
ファルフ・ルジマトフ
イリーナ・ペレン(ミハイロフスキー劇場バレエ/プリンシパル)
アンジェリーナ・ヴォロンツォーワ(ミハイロフスキー劇場バレエ/プリンシパル)
デニス・ロヂキン(ボリショイ・バレエ/プリンシパル)
ダレル・ルジマトフ(マリインスキー・バレエ)
ほか

追加のキャストは以下公演ページにて随時公開予定!
https://www.koransha.com/ballet/ruzimatov/

【Aプログラム】

「Ne me quitte pas(いかないで)」
N.アンドロソフ振付
ファルフ・ルジマトフ&イリーナ・ペレン

「ボレロ」
N.アンドロソフ振付
ファルフ・ルジマトフ

「薔薇の精」
「海賊」よりグラン・パ・ド・トロワ
「ドン・キホーテ」よりグラン・パ・ド・ドゥ
ほか

【Bプログラム】

「牧神の午後」
F.ルジマトフ改訂振付
ファルフ・ルジマトフ&イリーナ・ペレン

「王は踊る」
N.アンドロソフ振付
ファルフ・ルジマトフ ほか

「シェヘラザード」より
「海賊」よりグラン・パ・ド・トロワ
「ディアナとアクティオンのグラン・パ・ド・ドゥ」
ほか

※演奏は特別録音音源を使用いたします。
※出演者、演目は変更になる場合がございます。
※未就学児のご入場はご遠慮ください。