「Ballet Muses-バレエの美神2025-」出演! バレエの殿堂ボリショイ/マリインスキーの新たなスターたち ~エリザヴェータ・ココレワ編~

最年少プリンシパルとして注目を浴びるエリザヴェータ・ココレワ。初来日となる「Ballet Muses -バレエの美神2025」公演に先駆けて、幼少期からボリショイ・バレエでの活躍についてお話を伺いました。


——ココレワさんは今回初来日されるということで、たくさんお話を伺えればと思います。まずはバレエをはじめたきっかけについて教えて下さい。

父がバレエ・ダンサーで、3歳ごろからバレリーナになりたいと思っていました。でも10歳でモスクワ国立バレエ・アカデミー(通称ボリショイ・バレエ学校)に入るまでは、バレエを習ったことはなかったんです。間違った踊り方を身につけないようにという、父の方針でした。

——バレエ学校時代の思い出は?

良い思い出しかありません。寮暮らしで、外国人留学生との交流もありました。上級生の男の子たちとデュエットの練習をしたり…。クラスでは競争もありましたが、皆仲が良かったです。コンクールに参加するときは、休み期間中ずっとリハーサルをしなくてはいけませんでしたが、それも好きでした。夢中になると時間が経つのを忘れてしまうんです。

——2019年からボリショイ・バレエで踊られていますが、最初の印象は?

初舞台は11歳の時、ボリショイ本劇場の改修工事後のオープニングで、『眠りの森の美女』に出ました。舞台袖から走って登場する20秒間がまるで永遠に続くかのようでした。舞台から観える景色に圧倒されて言葉も出ませんでした。
アカデミー時代も子役で色々踊りました。子役で舞台に立つときは授業に出なくて良かったので、楽しい記憶です。舞台袖から沢山の作品を観て、ダンサーの踊り方の違いを観察しました。

ボリショイ・バレエ入団後は、コール・ド・バレエで踊りました。それも私の誕生日にシーズンが始まったんです!「上手くいきそう!」と思いました。でも現実はそうではなく入団してしばらくはただ泣いて過ごしました。舞台リハーサルまで数日しかないのに教師が決まっていなかったんです。最初の1年はそんな風に、リハーサルがなくて突然役をもらって舞台に立つことが多かったです。入団した時は、テクニカルなバレリーナがたくさんいて、私はそのレベルではないと感じました。脚がそこまで強くなかったので、軽さや可憐さといった長所を見せようと頑張りました。

———そして今や最年少のプリンシパルですが、どんなお気持ちですか?

『ファラオの娘』の主役デビュー後に任命されたのですが、何かの冗談かと思いました。踊り終えた直後に「おめでとう!」と言われ、にわかには信じられませんでした。もちろん嬉しかったですが、まだ色々なことが出来ないし経験も少ないのに、自分の身に起こっていることとは思えず怖かったです。ソリストにしてほしいと頼んだこともありませんでした。リーディング・ソリストになった時でさえ、「まだ早いです」と言いました。プリンシパルなんてそばを通りすぎるだけでも、あいさつするのがやっとの怖い存在だったんです。

入団した時、「上の地位を目指そう」ではなく、「昨日の自分よりももっと良くなろう」という目標を立てました。今も同じです。

今は一週間で3つの全く異なる役を用意するということはよくあります。最年少のプリンシパルだと何か並外れたものを期待されるので大変です。コール・ドではとにかく丁寧に踊るようにしていましたが、ソリストになって舞台数を重ねると、上手くいくときとそうでないときと揺れがあって、だんだん恐怖心が積み重なっていったんです。今では落ち着いたのか、恐怖心はそれほど大きくなく、心配はしますが心地よいものです。

———自由な時間は何をしますか?

日本のアニメを見ます!『デス・ノート』、最近は『呪術廻戦』、『HUNTER×HUNTER』を見ました。『進撃の巨人』は悲しいシーンがあって挫折したのですが、最後まで見たいと思っています。

———「Ballet Muses -バレエの美神2025-」のお話を伺っていきたいと思います。踊りを通して何を日本の観客に伝えたいですか?

様々な演目を通して色々な感情をお伝えできればと思います。実は何も特別なことはしていないんです。音楽にすべてがあります。音楽が第一で、あらゆる感情が込められています。もちろん振付にもあります。ロシア・バレエでは、ダンサーがより個性的で自由に踊っているのではないかと思います。心から踊るところ、音楽的な側面をお見せできればと思います。

『ラ・シルフィード』のパ・ド・ドゥは魅力的で、空気のような軽さがあって、アントレ、アダージオ、ヴァリエーション、コーダが自然に流れていってあっという間に時間が経ちます。技術的な面ももちろんありますが、親しみやすい作品かと思います。

『ドン・キホーテ』は盛り上がりますし、グラン・パ・ド・ドゥにはバレエの魅力がすべてつまっていると思います。絢爛さ、優雅さ、技術的な華やかさ、アップテンポになっていくところ…。このパ・ド・ドゥはすごく好きです。

『カルメン』をガラ公演で踊るのははじめて。私たちはとても若いペアで、いつもマイヤ・プリセツカヤと比較されます。彼女のようには踊れませんが…。私はどんなにお化粧をしても、成熟した女性のようには見えないんです。だから下品に見えないように正しいアプローチが必要だと思います。バレエとは感情や物語を動きで表現することだと思っています。『カルメン』の振付も純粋なクラシックではなく、目線やケミストリーに込めるものがたくさんあると感じています。ホセとの緊張感を表現力豊かにお伝えしたいです。

———パートナー、ダニール・ポタプツェフさんはどんなダンサーですか?

若手ダンサーで、『カルメン』で一緒にデビューしたパートナーです。私より年下ですが、プロポーションや身体条件も良くて大人っぽく見えます。エイフマン・アカデミーの卒業生で、コーディネーションに優れていて、振付の理解や吸収がとても速い。パ・ド・ドゥが最大限美しく完成するようにたくさんの注意と時間を割いてくれます。ダンサーが皆そんなふうにパ・ド・ドゥに時間をかけるわけではないんです。わざとらしく表情を作ったり、情熱的に見せるということはしないのですが、動きの中に才能が光る、ダンサーという職業への態度が見える、そんなダンサーです。

———初来日を控えてどんなお気持ちですか?

周りは皆、日本公演は最高の海外公演だと言います。日本は車が空を飛んでいるような未来の国のようなイメージがあります。和食も好きです。すべてが人々のために作られていて、人だけでなく、建物、全てに対する尊敬があるように感じます。

———バレエ・ダンサーを目指す子供たちにメッセージをお願いします。

心身の健康をまずは大事にしてください。しっかり身体を温めて、オーバーストレッチなども慎重に正しく行うようにしてください。心を打つようなバレエをたくさん見てください。バレエは美しいですが、実際は大変な毎日のルーティーンで、心地よいものではありません。毎日鏡の前に立って、「こうじゃない」という姿を目の当たりにします。侮辱も賞賛もせず、毎日頭を使って規則正しく練習を重ねてください。バレエは技術だけでなく、芸術でなければいけないと思います。よい日も悪い日も、すべてがあなたの役に立ちます。自分を大事にしながら前進していってください。

———最後に日本の観客の皆様へメッセージをお願いします。

良い時間を過ごしていただければと思います。大変な時に思い起こして励みにしていただけるような、記憶に残る公演になれば嬉しいです。

インタビュー 梶彩子


エリザヴェータ・ココレワ
(ボリショイ・バレエ/プリンシパル)

モスクワにて、バレエ一家に生まれる。2019年にモスクワ国立バレエ・アカデミー(ボリショイ・バレエ学校)を卒業後、ボリショイ・バレエに入団。2022年にリーディング・ソリスト、2023年にプリンシパルに昇格。2017年に第13回モスクワ国際バレエコンクールで第1位、2019年、第4回全ロシア若手ダンサーコンクール“ロシア・バレエ“にて1位。主なレパートリーは『ロミオとジュリエット』ジュリエット、『ジゼル』ジゼル、『ドン・キホーテ』キトリ、『眠りの森の美女』オーロラ姫、『コッペリア』スワニルダ等。現在は往年の伝説的なダンサーであったマリア・アラッシュに師事している。


「Ballet Muses-バレエの美神2025-」出演
バレエの殿堂ボリショイ/マリインスキーの新たなスターたち
マリア・イリューシキナ編はこちら
https://www.koransha.com/contents/7392/


Ballet Muses -バレエの美神 2025- 公演情報

【公演日程】
東京国際フォーラムホールC
10月31日(金)19時
11月1日(土)13時/17時
東大阪市文化創造館Dream House 大ホール
11月3日(月・祝)14時
愛知県芸術劇場 大ホール
11月5日(水)19時

【出演者】
アリョーナ・コワリョーワ(ボリショイ・バレエ/プリンシパル)
佐々晴香(ベルリン国立バレエ/プリンシパル)
エリザヴェータ・ココレワ(ボリショイ・バレエ/プリンシパル)
マリア・イリューシキナ(マリインスキー・バレエ/プリンシパル)
マリア・ホーレワ(マリインスキー・バレエ/ファースト・ソリスト)
ユリア・ルキアネンコ(ミハイロフスキー劇場バレエ/ファースト・ソリスト)
エゴール・ゲラシェンコ(ボリショイ・バレエ/プリンシパル)
ティムール・アスケロフ(マリインスキー・バレエ/プリンシパル)
ヴィクトル・レベデフ(ミハイロフスキー劇場バレエ/プリンシパル)
ダヴィッド・ソアレス(ベルリン国立バレエ/プリンシパル)
ダニール・ポタプツェフ(ボリショイ・バレエ/ファースト・ソリスト)
マカール・ミハルキン(ボリショイ・バレエ/ソリスト)

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https://www.koransha.com/ballet/muses/