世界の有名バレリーナ ~世界の頂点を極めるバレリーナたち~<前編>

世界には、多くのバレエ団が存在して数多くのバレリーナたちが活躍しています。その中でトップに登り詰めて、名前を知られるようになるバレリーナは、ほんのひと握り。さらにその中から、時代を代表するような有名なバレリーナとなれるのは、本当に限られたスターたちです。今回は、世界の有名バレリ-ナとして、誰もが認める実力と人気を兼ね備えた20人をご紹介します。


2回に分けて掲載します。 21世紀のいま、世界の頂点を極めるバレリーナたち

第1回目<前編>: (←今回はココです)
1.バレリーナにおける世界最高レベルとは? ―世界の頂点の条件、魅力:特徴や共通性―
2.バレエ界のレジェンドたち ―ギエム、アナニアシヴィリ、フェリ、ロパートキナ―
3.世界の頂点を極める人気トップ・プリマ16選 ―ザハーロワ、ヴィシニョーワ、コジョカル、セミオノワ ほか―
第2回目<後編>
4.世界で活躍する日本人バレリーナたち ―吉田都、中村祥子、高田茜、加治屋百合子、倉永美沙、永久メイ ほか―


21世紀のいま、世界の頂点を極めるバレリーナたち

1.バレリーナにおける世界最高レベルとは?

バレエ公演の華たるプリマバレリーナ(注1)。その栄光にあずかるのは、数多(あまた)いるバレリーナの中でも限られる。ましてや世界的なスターとして喝采を浴びるのは、ほんの(ひと)(にぎ)りだ。21世紀のいま、世界の頂点を極めたバレリーナたちの魅力・特徴とは?

◇世界の頂点の条件 ~名門バレエ団の伝統と、活躍の多様化~

 世界のトップバレリーナを語るとき、まずは名門バレエ団の伝統を無視できない。世界最古のバレエ団にしでバレエの殿堂”と称されるパリ・オペラ座バレエ団、ロシアの雄であるボリショイ・バレエ、マリインスキー・バレエといった世界最高峰の一線級は、やはり屈指の存在。多くが幼少から付属の学校で学び、狭き門を経て入団し、その後も優れた教師・コーチの指導を得て飛躍する。伝統が彼女たちを踊らせ、芸術家へと高める。
 いっぽうで、日本でも人気の高い英国ロイヤル・バレエ団は、1980年代の終わりから国籍・人種を問わずプリンシパル(最高位)に据える。国際化を進め、多様な個性が響き合うことによって、゙ロイヤル・スタイル”を21世紀につなげている。
 いまではこうした方向性が世界の主流で、ローザンヌ国際バレエコンクール、ユース・アメリカ・グランプリ(YAGP)といった若手の登竜門から羽ばたいた才能らが、世界的なスターとなる下地がある。

 人気ダンサーの活動形態も多様化した。移籍も活発で、ゲスト・プリンシパルとして世界各地で活躍する人も珍しくない。西洋発祥のバレエのグローバル化が進むに伴って、世界的なバレリーナはより一層多彩なバックグラウンドと活動方法を持つに至っている。

パリ・オペラ座

◇世界の頂点を極めるバレリーナの魅力 ~特徴や共通性~

 そのような状況において、バレリーナとして頂点を極めるとはどういうことか。まず第一に、プリマ(最高位)の肩書を得てもバレエの原点に対し真摯に向き合う態度だろう。優美極まりないポーズ、重力を感じさせないような跳躍、軸のぶれない回転。世界の名手が集うガラ・コンサートなどに接すると、トップクラスであるほど身体を極限まで磨き上げ、基本を大切にして踊り輝いていることを肌で感じる。天性の資質や威厳・貫録で魅せるだけでなく、いついかなるときも細部に美を宿らせるクオリティを追求できることは、不変の条件だろう。
 その上で、いま世界の頂点を極め観客に支持されるプリマに相通じるのは、旧来の価値観に囚われず挑み続ける強靭でしなやかな生き方ではないか。現代のバレリーナは、古典バレエに加えて、自由な発想にあふれスタイルも多様なコンテンポラリー作品にも挑む。トウシューズを履き、チュチュ姿ではかなげに舞う優美なプリンセスとしての姿だけではなく、多様化した社会に相応しい強い姿も求められている。

 クラシック・バレエの伝統を受け継ぎつつ、多様化社会、ボーダーレスな世界において常に脱皮し、新たな顔を見せ続ける至高の美の体現者たち。バレエの花形にして強固な意思と個性を舞台に刻み込むバレリーナたちが、新世紀のバレエを面白くしている。

2.バレエ界のレジェンドたち

◇革新的なバレリーナ  ― ギエム ―

 現代において、進化・深化し続けるバレリーナ像を生んだ革新者がシルヴィ・ギエムである。1984年、19歳でパリ・オペラ座バレエ団のエトワール(最高位)に任命されたギエムは、゙100年に1人のバレリーナ”と称され、バレエの美の概念を変えたとされる。゙6時のポーズ”と呼ばれる、片方の足を高く上げ保ち続ける神々しい体勢は彼女の代名詞だ。

 ギエムは若くしてパリ・オペラ座を退団し、英国ロイヤル・バレエ団のゲストとして活躍しながら活動の幅を広げる。英国の巨匠ケネス・マクミランの『マノン』や『三人姉妹』を新たな感性で演じ、大御所モーリス・ベジャールの『ボレロ』や『シシィ』を鮮烈に踊り、鬼才マッツ・エックの『アパルトマン』や『カルメン』で奔放な存在感を示した。さらに俊英振付家ラッセル・マリファントとのコラボレーション、異才アクラム・カーンと共演した『聖なる怪物たち』、演劇界の大物ロベール・ルパージュおよびマリファントと協同した『エオンナガタ』などによって、バレエ/ダンスの領域を拡大し深めた。2015年に現役引退したが、彼女のキャリアは後進に多大な影響を及ぼしているに違いない。

シルヴィ・ギエム

◇破格の存在のレジェンド  ― アナニアシヴィリ、フェリ、ロパートキナ ―

 ギエムと同世代の2人の大物も破格の存在だ。ニーナ・アナニアシヴィリはジョージア出身。1980年代からボリショイ・バレエの名花として台頭し、アメリカン・バレエ・シアター(ABT)にも籍を置き世界的大スターになった。アレッサンドラ・フェリはイタリアの至宝といえる女優バレリーナ。アメリカン・バレエ・シアターやミラノ・スカラ座バレエ団で活躍して40台半ばで一度引退したが、復帰し今も活躍するレジェンドだ。また、1990年代初頭からマリインスキー・バレエの頂点に君臨したウリヤーナ・ロパートキナも別格。2017年に引退したが、精神性が高く明鏡止水の境地の踊りは末永く語り継がれるだろう。

ニーナ・アナニアシヴィリ

アレッサンドラ・フェリ

ウリヤーナ・ロパートキナ

3.世界の頂点を極める人気トップ・プリマ16選

世界中で活躍する大勢のバレリーナの中で、現代を代表する存在をほんの僅かではあるが挙げよう(順不同)。

 スヴェトラーナ・ザハーロワ(ボリショイ・バレエ)は、当代随一の美と貫録を備えた不動の女王として神々しく君臨している。ディアナ・ヴィシニョーワ(マリインスキー・バレエ)は、名門の頂点を極めつつ個性豊かに舞う、マリインスキーの花。タマラ・ロホ(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)は、スペイン出身の知性派バレリーナ。芸術監督として腕をふるいながらリード・プリンシパルとして踊り続けている。

スヴェトラーナ・ザハーロワ(ボリショイ・バレエ)

ディアナ・ヴィシニョーワ(マリインスキー・バレエ)

タマラ・ロホ(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)

 アリーナ・コジョカル(ハンブルク・バレエ団ゲストアーティスト)は、ルーマニアに生まれ、ウクライナ、英国を経て世界中で活躍する可憐な名舞踊手である。マリアネラ・ヌニェス(英国ロイヤル・バレエ団)は、ロイヤルのトップ・プリマ。アルゼンチン生まれにして”ロイヤル・スタイル”の美を具現する存在となった。ドロテ・ジルベール(パリ・オペラ座バレエ団)は、大人の風格あふれる艶やかさが魅力。オペラ座の代表的エトワールとして日本でも絶大な人気を誇る。ナタリア・オシポワ(英国ロイヤル・バレエ団)は、強靭な技術と情感のある演技に秀でる異能。英国で高く評価され、現代作品にも意欲的である。ポリーナ・セミオノワ (ベルリン国立バレエ団ゲストプリンシパル)は、驚異のプロポーションを武器に飛翔し、世界各地の有名バレエ団に客演。日本での知名度も高い。

アリーナ・コジョカル(ハンブルク・バレエ団ゲストアーティスト)

マリアネラ・ヌニェス(英国ロイヤル・バレエ団)

ナタリア・オシポワ(英国ロイヤル・バレエ団)

 ローレン・カスバートソン(英国ロイヤル・バレエ団)は、ロンドンで絶大な人気を誇る、英国生粋の実力派スター。アマンディーヌ・アルビッソン(パリ・オペラ座バレエ団)は、オペラ座随一のエレガンスの持ち主で、演技力も指折りの名エトワール。オリガ・スミルノワ(ボリショイ・バレエ)は、ボリショイ新世代の看板として名をはせる。シネマビューイングでも主演が多い。フランチェスカ・ヘイワード(英国ロイヤル・バレエ団)は、ケニア生まれの英国人で、映画「キャッツ」(2019年)の白猫ヴィクトリアを演じ話題になった。ミスティ・コープランド(アメリカン・バレエ・シアター)は、アフリカ系の黒人女性として初めてABTのプリンシパルとなり華々しく活躍。

ローレン・カスバートソン(英国ロイヤル・バレエ団)

オリガ・スミルノワ(ボリショイ・バレエ)

フランチェスカ・ヘイワード(英国ロイヤル・バレエ団)

 サラ・ラム(英国ロイヤル・バレエ団)は、アメリカ生まれのベテランで日本でも人気が高い。英国らしいバレエから現代作品まで多彩に魅せる。シルヴィア・アッツォーニ(ハンブルク・バレエ団)は、イタリア出身。巨匠ジョン・ノイマイヤー作品の真髄を知り尽くす名花だ。ヤンヤン・タン(サンフランシスコ・バレエ団)は、『エスメラルダ』で一世を風靡。中国が生んだアジアの至高の舞姫で表現力に凄みがある。

サラ・ラム(英国ロイヤル・バレエ団)

シルヴィア・アッツォーニ(ハンブルク・バレエ団)

ヤンヤン・タン(サンフランシスコ・バレエ団)

取り上げたいバレリーナはまだまだ多くいるが、日本での知名度が高く、有名バレエ団のプリンシパル(最高位)に登り詰めた人気と実力あるバレリーナたちの一部を紹介した。英国ロイヤル・バレエ団在籍・出身者がやや多めとなったが、すべて出身国籍が異なり、個性も全く違うバレリーナたちなので挙げている。

文・高橋森彦(バレエ評論家)

(注1)※プリマバレリーナ=イタリア語で、第一のバレリーナを意味する。女性バレリーナの最高位を指す言葉。

(写真:アンジェラ加瀬、瀬戸秀美(光藍社過去のプログラム、公演より))


今回は、世界の頂点を極めるバレリーナとして20人を挙げて、現代のバレエ界のレジェンドと呼べるバレリーナと、世界の人気トップ・プリマたちをご紹介しました。

次回は、世界各国の有名バレエ団でプリンシパルとして活躍している日本人バレリーナたちをご紹介します。

第2回目:『世界で活躍する日本人バレリーナ ~世界の頂点を極めるバレリーナたち~』後編はコチラ

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