公演直前インタビュー!美しい脚と優れたテクニックで魅了するダンサー佐々晴香さんに聞く、「バレエの美神2025」初参加への想い

10月に「Ballet Muses-バレエの美神2025-」が東京、愛知、大阪で開催されます。来日公演に向けて、「バレエの美神」に初出演する佐々晴香さんにインタビューを行いました。

佐々晴香 「眠りの森の美女」(ハイデ版) ©Admill Kuyler
©Karin Shikata

——今回『バレエの美神2025』に出演のお話があったとき、どのように感じましたか?

とても嬉しかったです!これまで日本でガラ公演に出演したとき、共演するのは日本人ダンサーが多くて「久しぶり~」という感じだったのですが、この公演は一緒に踊るダヴィッド(・ソアレス)以外は「初めまして!」なダンサーばかり。私にとっても刺激的な舞台になると思うので、楽しみですね。

——Aプロ・Bプロともに踊られる『ノクターン』は、おふたりがいらっしゃるベルリン国立バレエの芸術監督クリスティアン・シュプックさんが振付けされた作品ですね?

はい、私たちが所属するバレエ団色のある作品を入れたくて選びました。『ノクターン』は、私は踊った経験がありますが、ダヴィッドは初めてです。なじみのあるショパンの曲にのせた、しっとりとした作品なので、ほかの演目との違いを見せられたら、と思います。流れるような美しい振付ですが、難しい作品ですね……踊っていると自然と行きたくなる方向ではないほうに切り返す振りが多くて、パートナーシップが肝心です。でも、ダヴィッドはすごくいいパートナーなので、彼となら途切れることなく踊れると思います。

——Bプロではジョゼ・マルティネス振付の『ドリーブ組曲』を踊られます。これは日本でもなじみのある作品ですが、踊られた経験は?

ダヴィッドは経験済みですが、私は初めてなんです。昨シーズンの最後にガラ公演があってそこで踊るはずだったのに、私が怪我で出られなかったので、ダヴィッドが今回踊ることを提案してくれました。かわいらしさがあって、きれいな作品ですよね。でも、同時に繊細さを見せられる振付だなと感じています。“アーティスティック・フリーダム”があるというか……ダンサーそれぞれが「こう踊りたい」というものを見せられる作品だと思います。

佐々晴香 シュプック振付「ノクターン」 ©Leszek Januszewski

——作品それぞれに加える味や個性のようなものでしょうか?

そうですね、私はもともと決まり事が多いほうが好きなんです。超絶技巧をばんばん見せる作品より、振付のなかで「くるぶしのこの位置に小指をつける」とか「この角度で目線をつける」とか、細かく決められる作品を踊りたいタイプ。これは私がスウェーデン王立バレエに在籍していたとき、当時の芸術監督だったニコラ・ル・リッシュから教わったことです。作品によって「悲しいなら首はこちらに(かし)げる」とか「自信のある性格だから首筋は立てて」とか、役柄によって細部まで調整することをニコラから学んで、次第に何を踊っても「このシーンで表現したいことを、どうすれば伝わるのか?」というクエスチョンが浮かぶようになりました。そうして、細部まで緻密に決めてしまえば、その先にフリーダムが待っているんです。

——決め事が多い=不自由、ではなく、緻密に創り上げることで結果的に佐々さんが「こう踊りたい」と思う味が出てくるのですね。

そうだと思います。私もダヴィッドも同じタイプで、リハーサル中はずっと「この手、どうする?」「どうやって歩く?」なんてことばかり相談しているので、スタジオ内でコーチはうずうずしているんじゃないかな(笑)。リハーサルが終わってもふたりで動画を観ながら「もう少し角度を変えたほうがきれいじゃない?」なんて、延々と話していますね。私はパートナーとの意見交換を大切にしているので、彼と踊るのは本当に楽しいんです。

佐々晴香、ダヴィッド・ソアレス「ジゼル」 ©Admill Kuyler

——佐々さんから見て、ダヴィッドさんの踊りにはどんな個性がありますか?

男性ダンサーのなかでも特に上体のつけ方がとてもきれい。アームスや上体に余計な力が入っていなくて、手を出すだけでも美しいです。かつ、空間をワイドに使うから、踊りはダイナミック!女性ダンサーにも参考になる体の使い方だと思います。彼は女性ダンサーへのアドバイスも上手なんですよ。プライベートでも仲良しです。

ダヴィッド・ソアレス ©Admill Kuyler

——ダヴィッドさんはボリショイ・バレエ出身ですが、今回はほかにも現在ロシアで活躍するダンサーがたくさんいますね!

ロシアのバレエ団の舞台を観る機会があまりなかったので、みなさんの踊りを生で観られるのが楽しみです。私は自分が学んだ以外のメソッドで踊るダンサーの動きを観るのが好きなんですよ。本番中に観ている余裕は私にはないのですが(笑)、リハーサル中にほかのダンサーが自身の学んできたメソッドを使って、どんなふうに作品にアプローチしているのかを間近で観られるのが嬉しい。今シーズン『白鳥の湖』を踊る予定なので、白鳥を踊るダンサーにはいろいろ聞いてみたいです。バレエは同じ振付でも踊る人が違うだけで、まったく違う作品になります。それがガラ公演の面白いところでもありますね。

——佐々さんは昨シーズン、怪我でお休みされていたそうですが、どんなふうにお過ごしでしたか?

鍛え直すことで踊り方を変えるところから始めました。私は股関節が開きすぎてしまうので、以前から「踊り方を変えなきゃ」とは思っていたんです。ほんの数ミリの角度の違いなのですが、踊り慣れた角度を変えるのは難しく、なかなかトライできずにいて……。でも、今回は強制的に変えざるを得なかったので、体の構造について学んだり、ジャイロトニックを始めたりといろいろやってみたら、体を酷使してばかりでいた自分に気づけました。そして、結果的に必要なのはスクワットだなと(笑)。長いお休みを取ることは初めてで不安もありましたが、立ち止まったことで学べたことは大きいので、ネガティブな時間ではなかったです。

——最後に、日本のお客さまへメッセージをお願いします!

いつも応援してくださって、ありがとうございます。私は普段、古典バレエ以外のコンテンポラリー作品にも触れる機会が多いのですが、ヨーロッパには「意味を考えずに、自由に楽しんで観ていいよ」というコンテ作品がたくさんあります。今回は、日本のお客さまがまだ触れていないような作品をお見せしたいと思っているので、そんなヨーロッパの風を感じていただけたら嬉しいです。

取材・文=富永明子(ライター)


佐々晴香
(ベルリン国立バレエ/プリンシパル)

2012年よりヒューストン・バレエ・アカデミーで学ぶ。2013年東京シティ・バレエ団に入団。2015年ドルトムント・バレエに移籍。2017年にスウェーデン王立バレエに移籍し、2019年プリンシパルに昇格。2022年にノルウェー国立バレエにプリンシパルとして移籍。2023年ベルリン国立バレエに移籍し、2024/2025シーズンよりプリンシパルに昇格。今までにマカロワ版『ジゼル』、ヌレエフ版『白鳥の湖』、ハイデ版とシュプック版の『眠りの森の美女』、スティーヴンソン版『シンデレラ』などに主演。バランシン、キリアン、フォーサイス、ソルレオン、エクマン、ドウソンなどの作品にも出演している。


Ballet Muses -バレエの美神 2025- 公演情報

【公演日程】
東京国際フォーラムホールC
10月31日(金)19時
11月1日(土)13時/17時
東大阪市文化創造館Dream House 大ホール
11月3日(月・祝)14時
愛知県芸術劇場 大ホール
11月5日(水)19時

【出演者】
アリョーナ・コワリョーワ(ボリショイ・バレエ/プリンシパル)
佐々晴香(ベルリン国立バレエ/プリンシパル)
エリザヴェータ・ココレワ(ボリショイ・バレエ/プリンシパル)
マリア・イリューシキナ(マリインスキー・バレエ/プリンシパル)
マリア・ホーレワ(マリインスキー・バレエ/ファースト・ソリスト)
ユリア・ルキアネンコ(ミハイロフスキー劇場バレエ/ファースト・ソリスト)
エゴール・ゲラシェンコ(ボリショイ・バレエ/プリンシパル)
ティムール・アスケロフ(マリインスキー・バレエ/プリンシパル)
ヴィクトル・レベデフ(ミハイロフスキー劇場バレエ/プリンシパル)
ダヴィッド・ソアレス(ベルリン国立バレエ/プリンシパル)
ダニール・ポタプツェフ(ボリショイ・バレエ/ファースト・ソリスト)
マカール・ミハルキン(ボリショイ・バレエ/ソリスト)

▼公演情報、チケット購入はこちらから
https://www.koransha.com/ballet/muses/


「Ballet Muses-バレエの美神2025-」出演者インタビュー
バレエの殿堂ボリショイ/マリインスキーの新たなスターたち
マリア・イリューシキナ編はこちら
https://www.koransha.com/contents/7392/


「Ballet Muses-バレエの美神2025-」出演者インタビュー
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エリザヴェータ・ココレワ編はこちら
https://www.koransha.com/contents/7404/