今年のクリスマスは、プチ贅沢にクリスマス・コンサートを聴きに行こう! 3曲の「アヴェ・マリア」を聴き比べ。クリスマスにこそ聴きたいクラシックの名曲

▼光藍社の公式LINEアカウントはコチラ!▼


■クリスマスの楽しみ


 クリスマスの季節になると、キリスト教の色が濃くない日本でも、ワクワク感と敬虔な趣が同居した独特の雰囲気が漂う。ましてや本家ヨーロッパでは年間屈指のイベント。アドベントと呼ばれる11月30日に最も近い日曜日からクリスマスイブまでの4週間は、各地でマーケットが開かれたり、イルミネーションが輝いたり……と街も大変な賑わいをみせる。

 この時期の楽しみの1つが「クリスマス・コンサート」だ。「ウィーン・アマデウス・ゾリステン」の地元ウィーンでも、コンツェルトハウス、楽友協会、シェーンブルン宮殿、王宮といった施設やウィーン少年合唱団の公演など、様々なコンサートが催される。これらの開催時期は、12月上旬から元旦までの長期間。つまり日本のクリスマス・コンサートが12月24、25日より以前にも行われているのは、ごく自然なことである。音楽の都の演奏家がおくる「クリスマス/アヴェ・マリア」の公演も、クリスマスに楽しめるコンサートして長年親しまれてきた。

クリスマス/アヴェ・マリア過去公演より

■3曲の「アヴェ・マリア」を聴き比べる

 「クリスマス/アヴェ・マリア」のコンサートを彩るのは、まずは“歌”。その柱をなすのが「アヴェ・マリア」である。これは、「おめでとう、マリア」「こんにちは、マリア」を意味するラテン語で、ひいてはこの言葉に始まるカトリック教会の典礼文(聖母マリアへの祈祷文)を指すようになり、さらにそれを用いた音楽作品を意味するようになった。

 「アヴェ・マリア」と題する楽曲は、9~10世紀に成立した「グレゴリオ聖歌」に登場して以来、無数に作られている。曲想はもちろん「祈りの気分に充ちた清澄な音楽」で、この点に変わりはない。その中で「3大アヴェ・マリア」と呼ばれる至福の名曲が、J.S.バッハ/グノー、シューベルト、カッチーニの作品。だが実はこの3曲、「アヴェ・マリア」の中でもとびきりユニークな内容を持っている。

J.S.バッハ/グノーの「アヴェ・マリア」は、フランス・ロマン派の大家グノー(1818-93)が、バッハの「平均律クラヴィーア曲集」第1集第1曲の前奏曲の上に、自作の旋律と「めでたしマリア、恵み溢れるひと、御子イエス・キリストを宿し給いて……」という定番の歌詞を付した作品。いわば大作曲家2人の合体作である。それゆえバッハは自分の曲が「アヴェ・マリア」になるとは夢にも思っていなかった。しかもグノーの作品は、1852年に別名の室内楽曲として発表され、その後合唱曲や歌曲に改作されたもの。しかしながら曲自体は、バッハの分散和音と自身の瞑想的な旋律が完全に調和した、グノーのセンスの良さを表す名曲だ。

ヨハン・セバスチャン・バッハ            シャルル・グノー

試聴J.S.バッハ(グノー編曲):アヴェ・マリア 

 
 シューベルト(1797−1828)の「アヴェ・マリア」は、このウィーンの“歌曲王”が1825年に書いた「エレンの歌」と題する3曲続きの物語的な歌曲の第3曲。父と共に山奥の洞窟に落ちのびた女性ヘレンが、逆境の中で生きることを決意し、父と自身の無事を聖母マリアに祈る歌で、歌詞は定番の典礼文ではなく、ウォルター・スコットの叙事詩「湖上の美人」に基づいている。つまり宗教音楽ではないのだが、敬虔な祈りに即した旋律が歌われる音楽の美しさゆえに、単独の「アヴェ・マリア」として親しまれるようになった。

フランツ・シューベルト                                    

試聴シューベルト:アヴェ・マリア

 カッチーニ(1551−1618)の「アヴェ・マリア」はさらに変わっている。カッチーニはイタリア・バロック時代初期の作曲家だが、この曲は、出典が不明な上に、歌詞が「アヴェ・マリア」の一語のみという珍しい構成の作品。すると近年、「旧ソ連の20世紀作曲家ヴァヴィロフが1970年代に書いた」とみなされるようになり、今ではこの説が定着している。とはいえ、古風でいてポピュラー・ソングにも似た哀愁漂う音楽はすこぶる美しく、ヒーリング系の人気歌手が愛唱したことや映画での使用も相まって、「カッチーニのアヴェ・マリア」として高い人気を得ている。

 これら3曲はかように個性的な魅力を持っているので、聴き比べるのも興味深く且つ愉しい。

ジュリオ・カッチーニ                                                           

試聴カッチーニ:アヴェ・マリア


▼光藍社の公式YouTubeチャンネルはコチラ!▼


■クリスマスに相応しい楽曲の数々

 このほかのクリスマス・コンサートの定番といえば、モーツァルトやバロック時代の作品だろう。今回披露されるモーツァルトの「踊れ、喜べ、幸いなる魂よ」の「ハレルヤ」は、「ハレルヤ=主をほめ讃えよ」の一語のみで歌われる無垢で明るい音楽、「アヴェ・ヴェルム・コルプス」は、天才晩年の清らかさの極みともいえる至高の音楽だ。

 バロック作品では、パッヘルベルの「カノン」、ヴィヴァルディの「四季」より“冬”、J.S.バッハの「G線上のアリア」など、今回の演目が代表格と言っていい。いずれも哀感を帯びた旋律が流れゆくしみじみとした音楽で、祈りにも似た雰囲気がクリスマスにピッタリ。その意味では、ロマン派マスネの「タイスの瞑想曲」も同様だ。

すべての楽曲に共通するのが、美しい旋律と瞑想的でピュアな空気感。どれも聴く者の胸に染み入り、心を洗い、温めてくれる。そして、コロナ禍や戦争等がもたらす疲弊や不安を癒し、敬虔な気持ちへと導く。こうした音楽を聴いてこそ得られる安らぎを求めて、「クリスマス/アヴェ・マリア」にぜひとも足を運びたい。 

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト                                               

                                                                                                柴田克彦(音楽評論家)


▼お得な情報配信中!
光藍社の各SNSアカウントはこちら!

■光藍社公式LINE https://lin.ee/y47xNQD
■YouTubeチャンネル https://www.youtube.com/user/koranshaTV
■バレエX(Twitter) https://twitter.com/koransha_inc
■お知らせX(Twitter)https://twitter.com/koranshatv
■Instagram https://www.instagram.com/koransha_concert/
■Instagram(音楽)https://www.instagram.com/koransha_classic/