『バレエ・リュスの祭典
第2部「シェヘラザード」』にゲスト出演する注目のダンサー!
ウクライナに生まれ、キエフ・バレエ学校で学んだイヴァン・プトロフは、1996年に15才でローザンヌ・コンクールに入賞。ロンドンのロイヤル・バレエ・スクールに留学にした。卒業の年の夏、1998年ロンドン市内の野外劇場で「バヤデルカ」のブロンズ・アイドルを踊った当時の様子は特筆に値する。
当時、英バレエ関係者やファンの多くの目には、英国ロイヤル・バレエで活躍する熊川哲也の大きな跳躍や華やかな旋回技を次々と繰り出すブロンズ・アイドルが焼き付いていた時代であった。当日鉛色の空の下、大雨という悪天候の中にも関わらず、颯爽と舞台に登場したプトロフによるソロは、幽玄にして芸術性に溢れ「真のアーティストの誕生」を告げる記念すべき物。ギエムらの活躍により技術偏重に傾いていた当時のバレエ界を憂う関係者に光明を抱かせる演技を魅せ、会場の観客をも大いに沸かせた。
(L.マリファント振付)
同年英国ロイヤル・バレエに入団したプトロフの最初の当たり役は「くるみ割り人形」のくるみ割り人形とハンス・ペーターの2役。アリーナ・コジョカルのクララ、アントニー・ダウエルのドロッセルマイヤー、吉田都の金平糖の精という綺羅星のようなスターたちと共演したプトロフの舞台は、2001年にDVD化されて世界中のバレエ・ファンの目を楽しませている。
2002年のプリンシパル昇進後からは、ロイヤル・バレエ団の殆どの演目に主演し、「ロミオとジュリエット」のロミオ、「ジゼル」のアルブレヒト、「マノン」のデ・グリュー、「オネーギン」のレンスキー、「田園の出来事」の主役ベリャーエフ、「バヤデルカ」のソロルといったロマンティックで悲劇的な役から、「放蕩息子」やロビンスの「牧神の午後」などのネオクラシックに主演。プトロフならではの優れたテクニックと精神性を表す演技で、忘れがたい舞台の数々を作った。
ロイヤル時代のプトロフは、優美で静かな佇まい、少年の面影を残す甘いマスク、甲高の美しい足、優美な腕使いとエレガントなステージ・マナー、音楽性と優れた演技で、一世を風靡した。
ペトルーシュカ役
- 「ナルシス」
(K.ゴレイゾフスキー振付)
ナルシス役 - 「バヤデルカ」
(N.マカロワ振付)
ソロル役
2010年5月に英国ロイヤル・バレエを退団後は、イングリッシュ・ナショナル・バレエ、ウィーン国立バレエ、キエフ・バレエなど世界のバレエ団から招かれゲスト主演をしている。客演以外にも自らが公演のディレクターを務めるなどの活躍を見せ、特に世界のトップ男性ダンサーと共演する座長公演「メン・イン・モーション」が大変な好評で注目を浴びた。今年2月の公演では、イヴァン・プトロフのほか、ワディム・ムンタギロフ、シュトットガルト・バレエのマライン・ラドメーカー、元ベルリン国立バレエのライナー・クランシュタッター、マリアン・ワルターといった錚々たるダンサーが集い、公演を行った。
プトロフが出演するロンドンでの公演には、いつもたくさんのファンが詰めかけ、公演後にプレゼントを手渡す姿を目にする。その人気を裏付けるように、日本へも度々客演していて今年だけでも3度目の日本公演となる。今年12月にはスヴェトラーナ・ザハロワがボリショイ劇場で行うガラ公演にも出演。今絶大な人気を誇るナターリヤ・オーシポワと共にマクミラン版「ロミオとジュリエット」を踊る予定だ。
- 「マノン」
(K.マクミラン振付)
デ・グリュー役 - 「ロミオとジュリエット」
(K.マクミラン振付)
ロミオ役
さて、今回プトロフがキエフの名花フィリピエワと踊る「シェヘラザード」。実はこの共演演目はキエフでしか上演されておらず、金の奴隷を踊るプトロフはロンドンでも見ることが叶わなかった貴重な演目。限られた男性ダンサーにしか踊ることのできない多くの要素が必要な役柄を、これまで数多くの役を繊細な演技でこなしてきたプトロフがどのように演じるのか、充実のベテラン・バレリーナと、甘く若々しい魅力あふれるプトロフとの競演に、大きな期待が集まる。
- 「田園の出来事」(F.アシュトン振付)
ベリャーエフ役 - 「メン・イン・モーション」(プトロフ監修) カーテンコール
(プトロフ左から3人目。A.ピタ(振付家)、E.ワトソン、W.ムンタギロフらと共に)
文・写真
アンジェラ加瀬(舞踊ジャーナリスト、舞台写真家)
ロンドン在住